母校のニュース(2003年)

大阪大学ベンチャービジネスラボラトリー

 平成14年4月から基礎工学研究科の小林哲郎先生の後任としてラボ長に就任致しました。本ベンチャービジネスラボラトリー(VBL)は平成7年度に発足し、今年で8年目を迎えております。その設立の主旨は「研究教育を通じて、21世紀日本の科学・技術の発展を担う起業家精神に富む大学院生等の若手の人材を養成する」ことです。また研究プログラムとして「光機能材料の創製とフォトニクス情報システム構築への展開」をかかげ、理学研究科、工学研究科、基礎工学研究科の教官が連携して、研究教育に携わっています。現実には予算は付いておらないのですが「大学発ベンチャー」が創生できるかも問われております。現時点における業務内容として、1.学生へのVB教育(アントレプレナー教育)、2.起業創出のためのシーズを生み出す研究、3.社会連携および起業支援・新産業創出の3本柱を掲げております。このため学生へのVB教育、新しい技術を生み出すためのインキュベーション研究、さらには特許取得のためのセミナー、産学連携推進セミナーそしてVBL創出等の多くの仕事を抱えて居ります。一方職員としては学内流動定員による助教授1名と助手1名であり、わずかに救いは、約10名のポスドクが文部省から付くと云う点で、全員が一丸となってVBLを運営しているというのが実情であります。

 学内には先端研究センターがありVB教育という点を除けば、非常に似た任務を行って居ります。このため企業からみた時、相談窓口が分からないという話を良く聴きます。こういった無駄を無くし効率よく運営し、大学発VBを興してゆくために、平成16年度からの独立法人化の実施に合わせ、VBL、先端研、先導オープンセンターが合併するという構想で現在計画が進んでいます。合併後もVBLの特徴として、1.経済学研究科との協力による学生へのアントレプレナー教育と、2.シーズ創生のための研究に力を入れる、3.先端研、関西TLOと歩調を合わせVBの推進を計ってゆく予定です。            

 1に関してはすでに工学研究科と経済学研究科とのジョイントプログラムとしてビジネススクール(修士課程)の立ち上げが考えられていますが、VBLにおいては単位取得のためよりも、VBを実際に立ち上げるための実践的な教育(塾的なスタイル)を経済学研究科とタイアップし行ってゆく予定です。また2に関してはシーズ創生研究を大幅に増やすために、理、工、基礎工学研究科間のみならず、広く情報、生命機能、医、歯、薬、経済研究科間にまたがる大学内融合型共同研究の推進を計ってゆきたいと考えています。皆様方のご協力をお願いする次第です。

佐々木 孝友(電気・昭42・M44)
ベンチャービジネスラボラトリー長
(電気工学専攻・教授)
会報澪電No.24より

小泉首相が超高圧電子顕微鏡センターを視察

 2002年7月13日、小泉純一郎首相が300万ボルト超高圧電子顕微鏡の視察に超高圧電子顕微鏡センターを訪問されました。同センターは、故菅田栄治教授(電気・昭和7卒)が1939年日本で最初の電子顕微鏡を開発されて以来、この分野の中核的な研究機関として大阪大学に設置されたもので、300万ボルトという世界一の加速電圧を誇っており、これを用いて物質極微構造観察や生体観察などで輝かしい実績を挙げている。電子工学専攻の協力講座としても、電気系とのつながりが大きい。

 当日は、内閣総理大臣秘書官、文部科学省事務次官をはじめ、医師・看護婦・カメラマンに至るまで内閣府と文部科学省からの20名とペン記者16名など合計40名弱を引き連れての訪問であった。午後1時前から本部で岸本総長らと約30分間、懇談・昼食の後、総長の先導で約30分間、電顕センターを訪問されました。概要説明を受けた後、遠隔操作室に入り、自ら操作盤に触れて電顕観察を体験されました。LSI断面微細構造観察や神経樹状突起の3次元画像にも興味を示されました。あわただしい日程での訪問であったがセンターにとっては大変名誉な出来事であった。

尾浦憲治郎(電子・昭39・M41・D46)
超高圧電子顕微鏡センター長
(電子工学専攻・教授)
会報澪電No.24より

レーザー核融合点火の実証に向けて

 エネルギー生産過程で放射性廃棄物や温暖化ガスを出さない核融合は、21世紀の基幹エネルギー源として期待され、先進各国では国家的事業として取り組まれている。核融合の方式には、燃料となる高温の水素プラズマを磁気力で閉じ込めて核融合反応を定常的に起こす磁気閉じ込め核融合と強力なレーザーで太陽中心の密度(160g/cm3)のプラズマを瞬時に作り、それを繰り返すことにより内燃機関と同じように繰り返すことでエネルギーを取り出すレーザー核融合がある。

 電気工学科より発展して昭和47年に発足したレーザー核融合研究センターでは後者の研究を我が国唯一の中核研究施設として、また世界のCOEとして進めてきた。これまでに建設当時、世界最大のレーザーであった「激光XII号」を用いてエネルギー生産に必要な太陽の中心密度を上回る密度1kg/cm3のプラズマを世界に先駆けて達成する等の成果を挙げてきた。この超高密度プラズマに千兆ワットのレーザーを千億分の1秒間照射して核融合点火に導く新方式の「高速点火」なる方式を発明、出力100兆ワットレーザー、そのアップグレードである世界最高出力の1000兆ワットレーザーでの研究を1999年より展開し、その成果を世界で最も権威のある英国科学誌Natureに2001年と2002年に連続して発表、この方式でコンパクトな核融合炉が実現できることを示した。この成果が世界的に認められ、文部科学省の科学技術・学術審議会でその推進が承認された。本年度よりエネルギー発生の実証に向けての研究計画「高速点火実験計画FIREX(2期12年)」の第1期計画を開始することとなり、それに必要な装置経費の一部が次世代半導体製造技術の根幹となる極端紫外(EUV)光源技術開発とのデュアルパーパス予算として認められた。この計画が順調に進めば、大阪大学が世界初の核融合点火・燃焼の実証の栄誉に浴すことになる。同窓生諸氏のご支援をお願いする次第です。

山中 龍彦(電気・昭38・M42)
レーザー核融合研究センター長
(レーザー核融合研究センター・教授)
会報澪電No.24より

森永規彦教授最終講義

 通信工学専攻教授・森永規彦先生は、平成15年3月31日をもって停年退官されることとなりました。ご退官を迎えられるにあたり、最終講義が平成15年 1月30日(木)午後1時より電気系メモリアルホールにて行われました。当日は、学内のみならず、卒業生等、学外からも多数聴講に来られました。通信工学専攻長の河﨑善一郎教授より森永先生が紹介された後、「高度情報通信ネットワーク社会を目指しての歩み」と題する90分の講義が始まりました。

 先生は,ご自身が歩んでこられた35年間の研究の歩みについて,その時代背景やそれに対してどのように対処してきたか等を絡めてお話されました。

 まず、60年代から70年代を回顧され、先生が助手に採用された時期は、吹田キャンパスへの移転や大学紛争などがあった激動の時代であったこと、そのような中で、当時、大学ではほとんど取り組まれていたなった無線通信システムとノイズに関する研究を立ち上げたことなどを話されました。また、1980年に入ったころからは、衛星通信、固定通信、移動通信、宇宙通信、光通信、EMCといった、より実際的なシステムの研究へと研究分野を拡大させたこと、1990年から2000年にかけては、マルチメディア時代の中で、ワイヤレス通信技術が中核技術の1つとして技術開発の表舞台に出てきたことを話されました。

 さらに、バブル経済の時代を経て不況の時代となるに至って、企業は総合から個別化の時代となったこと、その中で、大学に対しては、より高度な専門性を持つ学生が求められるようになったため、大学院の重点化の中で、社会が養成する優秀な人材が輩出できる大学院体制と立てるべく努力されたことをお話されるとともに、今後の大学の独立法人化が進められる中では、研究室単位の個別化と、研究室を超えた研究者間の協業による他の分野との融合技術の研究などをうまく両立させることが重要であるとの提言をされました。最後に、先生の今後の抱負と、これまでの研究生活にかかわってこられた方々への感謝の言葉を述べられ、最終講義を締めくくられました。講義終了後、先生のご指導に感謝の意を込めた花束贈呈が研究室の増永雅子秘書から行われ、大きな拍手に包まれ、先生は御退席されました。

 急速なグローバル化の波の中で、大学としてワイヤレス通信技術に取り組まれた先生の研究歴が凝縮され、また、教育者・研究者としてどのようにあるべきかを常に追求し、実践して来られたことが実感できる最終講義でありました。なお、最終講義の後、別室で森永先生を囲んだパーティが開かれ、約2時間にわたって和やかな雰囲気での懇談が行われました。

(三瓶 政一(教官)記)
会報澪電No.24より

白川功教授最終講義

 情報科学研究科 情報システム工学専攻・白川功教授は,平成15年3月31日をもって定年退官されることになりました.ご退官を迎えられるにあたり,最終講義が平成15年2月7日(金)午後3時30分より銀杏会館 阪急電鉄・三和銀行ホールにて行われました.司会は工学部情報システム工学科目長の村上孝三教授が担当され,情報システム工学専攻長の今井正治教授より白川教授のご略歴が紹介された後,「産学共働研究をふりかえって」と題する講義が開始されました.

 最終講義は,白川先生が大学院学生時代に尾崎弘教授,嵩忠雄助教授のご指導のもとに取り組まれた,定期乗車券通用経路の符号化,定期券の自動発行という実用的な問題にする研究のご紹介で始まりました.本研究が後に30年余りにわたって先生が手広く進められた産学「共働」のきっかけとなったことを述べられました.その後,順次取り組まれた回路合成,プリント配線基板のレイアウト設計,3次元CG: LINKS-1,LSIの物理CAD,システムVLSIの設計,SW/HWCo-Design の各研究について,先生が直接ご指導をされた学生について言及されながら,講義が進みました.特に,LINKS-1 のご紹介では,当時作成された CG 動画像を実際にビデオクリップを交えてご説明されるなど,大変興味深く,示唆に富んだ非常に有益な講義内容でした.また,実際に名前を呼ばれた白川先生の弟子達にとっては,深い感銘を受けるとともに,学生時代の先生の厳しいご指導を思い出す懐かしく有難いものでした.この後,白川先生の大阪大学での研究ライフワークの集大成として,我が国ではじめて起業された産学連携ベンチャーである株式会社シンセシスについて,持続的技術と爆発的技術という2つのビジネスモデルの説明とともにご紹介されました.

 最後に,楽しく教育・研究活動をともにした同僚・弟子達に感謝の言葉を述べられ,講義が終了しました.講義終了後,先生の長年のご指導への感謝の意を込めた花束が研究室の須賀エリサ秘書より贈呈され,受講者全員の大きな拍手のもと,先生はご退席されました.最終講義終了後,別室にて,白川先生を囲んだ懇親会,また,千里阪急ホテルにて「白川功先生を囲む会」が開かれ,旧知のご友人の方々をはじめとして,皆様との賑やかな歓談が行われました.

 なお、白川功先生退官記念祝賀会は平成15年7月4日(金)にリーガロイヤルホテ ルにて執り行われる予定です.また,最終講義で使用されたプレゼンテーショ ン資料などは,下記 URL 以下に公開されております.

 http://www-ise2.ist.osaka-u.ac.jp/shirakawa/

(尾上孝雄 (電子・平3)記)
会報澪電No.24より

山中龍彦教授最終講義

 レーザー核融合研究センター教授・山中龍彦先生は、平成15年3月31 日をもって定年退官されることになりました。ご退官を迎えられるにあたり、最終講義が平成15年3月4日(火)午後3時より当センター大ホールにて行われました。

 井澤靖和教授(次期センター長)よりご略歴が紹介された後、「レーザー核融合研究の30余年」と題する講義が始まりました。講義の前半では、大阪大学工学部電気工学科在籍中から始められた高出力ガラスレーザーの開発とこれを用いた核融合研究の進展の歴史が、後半では先生が手がけられた最近の研究のハイライトが紹介されました。

 先生は教育指導と研究において数々の成果を挙げておられますが、特に忘れてはならないのはレーザー核融合研究の草創期といえる昭和44年より、名古屋大学プラズマ物理研究所の客員研究室で電気工学科山中千代衛教授(当時)とともに開始された研究でしょう。三菱電機、旭ガラス、ウシオ電機との共同研究で開発された激光I号レーザーの改造機を当時の電気工学山中研究室から移設し固体重水素ターゲットに照射して、レーザー光の異常吸収現象を発見されるとともに、 104個の中性子発生を初めて得ることに成功しました。その成果は各紙の第一面で報道され、レーザー核融合研究の本格的始動を高らかに宣言したのです。その後、先生は特に高密度プラズマ発生とその診断法開発にも力を注がれ、中性子発生10兆個(世界記録)、爆縮プラズマ600倍固体密度の達成(世界記録)などに結実しました。

 平成11年からはセンター長として指導力を発揮され、ペタワットレーザーを用いた高速点火方式においても世界を先導する成果を挙げてこられました。

 最後に、大阪大学で楽しく無事に教育・研究生活を過ごされたことについて感謝の言葉を述べられ、講義が終了しました。引き続き、佐々木孝友電気工学専攻長ならびに西川雅弘電子情報エネルギー工学専攻長から思い出を交えて長年の教育研究への先生のご尽力に対し労いの言葉が述べられました。

 その後、感謝とお礼の意を込めた花束がお嬢様の珠愛(たまえ)様と研究室の服部知衣世秘書より贈られ、大きな拍手に包まれつつ先生はご退席されました。

 最終講義の終了後、山中先生を囲んだ懇談会が行われました。なお、山中龍彦先生退官記念祝賀会および記念講演会が本年8月1日(金)に行われる予定です。

(西村博明(電気・昭50・M52・D退54)記)
会報澪電No.24より

中井貞雄名誉教授 Distinguished Career Award ご受賞

 中井貞雄名誉教授(電気、昭和36・M38・D41)は、平成14年12月3日、米国ワシントンのキャピタルヒルクラブにおいて、米国核融合エネルギー協会(Fusion Power Associates)より、Distinguished Career Award を受賞されました。これは、核融合エネルギーの学術・開発研究において輝かしい業績を持つ研究者を対象としたもので、過去には、Spitzer, Basov, Rosenbluth, Furth先生等、我が国からは伏見康治先生、関口忠先生(東京大学)、吉川允治先生(原子力研究所)等が受賞され、日本人としては、7人目となります。中井貞雄先生の数ある業績の中で、特に日本におけるレーザー慣性核融合研究の推進と同研究のIAEAにおける国際的な枠組み作りが評価の対象となりました。大阪大学澪電会コミュニティーにとっても、今回のご受賞は大変喜ばしいことであると思います。

 このご受賞と同時に、兒玉了祐助教授(電気、昭60・M62・D平2)は、米国核融合エネルギー協会よりExcellence in Fusion Engineering Awardを受賞されました。これは、レーザー核融合の高速点火という新手法において著しい実験研究成果を挙げ、従来手法の約10分の1のレーザーエネルギーで点火可能との目処を確立したためです(Nature 412, 798 (2001))。

(田中和夫(電気・昭49・M51・D58)記)
会報澪電No.24より

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Last-modified: 2010-03-12 (金) 19:00:48 (5152d)